座談会

60 周年記念号の特別企画として、“原点から新たな幕開け”をメインテーマに座談会を開催しました。東京・西新宿の日科技連本部に集まっていただいたのは、これまで長年にわたってQC サークル活動の研究と普及、推進に尽力し、多大な貢献をされてきた方々(敬称略、以下同)です。

話題は QC サークル活動の草創期の頃から将来の姿にいたるまで、広範囲に及びましたが、ここでは、新たな幕開けに向けて今後の活動で望まれる姿を中心に、座談会の概要をお届けします。

※座談会にご参加いただいた方々(左から)

  • 佐々木 眞一 氏(日本科学技術連盟理事長、QCサークル本部長、トヨタ自動車・元副社長)
  • 狩野 紀昭 氏(本誌顧問、東京理科大学名誉教授)
  • 細谷 克也 氏(本誌顧問、品質管理総合研究所代表取締役所長)
  • 司会:光藤 義郎 氏(本誌編集委員会委員長)

“QC サークルの父”石川馨先生の力強いリーダーシップに導かれて

光藤 本誌の創刊号は 1962 年 4 月号でした。 最初は『現場と QC』という名称で発刊し、その後、この雑誌を使って勉強しながら QC サークルを結成しようと呼びかけたので、QC サークル活動よりも本誌が先にスタートしたわけですね。この活動についてはみなさんにとってもいろいろと思い出深いことが多くあると思いますが、強く印象に残っていることなどをまずはお一人ずつお話しいただけますでしょうか。

狩野 東大の 4 年生の時に、今日“QC サークルの父”と呼ばれている石川馨先生の研究室に入れていただいたことが QC サークルとの出会いでした。ちょうどこの雑誌の創刊の翌年 1963 年から、工学博士をいただくまで 7年間、先生のご指導を受けました。国内はもとより、海外の工場へも QC サークル活動導入を含めての現場指導にお供をしました。石川先生は東京、大阪をはじめ、日本の隅々まで足を運ばれ、すごい勢いで普及活動に邁進され、毎週のゼミ開催時にご自分の体験を情熱を込めて私たちに語ってくださいました。そのお姿が 60 年経過した今日も思い出されます。

細谷 私の場合、勤めていたのが日本電信電話公社で、今の NTT です。品質管理を担当することになったのですが、それがよくわからないので職場でぼやいていたら、1962 年に日科技連の品質管理セミナーベーシックコースに派遣され、勉強しました。その縁で日科技連から講師を依頼され、さらに『QC サークル』誌の編集委員を担当。その後、編集委員長もやらせていただきました。私自身、この QC サークル活動は非常に大事な活動だと思い、今までお手伝いしてきました。

それと、QC サークル活動の普及という面では、QC サークル本部を中心とする組織化が各地で盛んに行われたわけですね。そこでは多くの企業の経営者や品質保証の責任者の方々、あるいは大学の先生方などが非常に地道な取組みを積み重ねられていました。企業の壁を越えて進めてこられました。これはやはり特筆すべきことだったと思います。

光藤 それを生み出したのも、まさに石川先生の力。オルガナイザー(組織者)ともよく呼ばれましたから。

狩野 QC サークル活動普及・推進のために全国的な組織図を描いて支部、地区を体系化させていくだけでなく、新設の順番も各支部、地区の責任者の人事とともにお考えになっていたように思われます。しかも石川先生に頼まれたら、誰だって断れなかったでしょうから(笑)。

佐々木 私が大学の工学部を出てトヨタ自動車工業(現:トヨタ自動車)に入社したのは、1970 年。「日本品質管理賞(現在の「デミング賞大賞」)」を受賞した年でした。配属先は元町工場(愛知県豊田市)で、検査部車両検査課の技術係。新入社員なのにいきなりQC サークルのアドバイザーをやれと指示され、とにかく必死で勉強したことを覚えています。会社ではその以前から全社一丸になって TQC 活動を進め、1965 年に「デミング賞実施賞(現在の「デミング賞」)」を受賞していました。工場長から管理職、現場の工長まで、みんな QC サークルに本当に熱心でした。

それまでの非科学的な勘や経験、度胸による仕事の進め方を、科学的な観点からどんどん改善していったわけです。品質管理、QCサークルって本当にすごいということを実感しながら仕事をさせてもらったので、幸せな社会人としてのスタートだったと思います。

IoT やデジタル技術を活用する努力と工夫も必要に

光藤 QC サークル活動としては草創期のとても興味深いお話でしたが、今は企業を取り巻く経営環境や社会環境の変化、あるいは働き方改革などもあって、第一線職場自体も大きく変わりつつあります。デジタル技術の進展や地球環境問題なども日々話題になっています。そうした状況を踏まえ、これからのQC サークル活動はどうあったらよいのかについて、みなさんに語り合っていただければと思います。

細谷 光藤さんが言われた様々な変化については、私は激変だととらえています。それだけに QC サークル活動についても多少大げさな表現になりますが、構造を改革しなければいけないのではないかと考えています。そして大事なポイントになるのは、経営への貢献でしょう。経営業績に貢献しなければ、経営者は QC サークル活動を評価し、推進しようとしてくれないと思うからです。

そのためにこれから目指す活動としては、たとえば、経営上の重要課題と整合した職場の課題をテーマとした活動。あるいは、有形の効果の内容が具体的に大きい活動、スピードをはかった活動、活動の結果が経営者、管理者やサークルメンバーの感動を呼ぶ活動といった観点が、ますます必要になると思います。

佐々木 モノづくりの現場が変わってきたということでは、IT 化や生産技術がビックリするくらい進化し、特に電子部品などはブラックボックス化した設備で製品が生み出される感じで、加工プロセスはほとんど見えません。しかも製品の更新が早く、寿命が短くなっていることもあり、現場で何か問題点があってもそれを調査・分析し、課題解決をするより、とにかく生産を優先する意識が働いているように見えます。

狩野 今のお話は衝撃的でした。

佐々木 たとえば、半導体などの工場における QC サークル活動になると、高度な知識や技術力を持つ人たちが加わらないと、うまく進められない気がします。製造工程がブラックボックスになっていても、コンピュータ・シミュレーションなどの方法で何とか問題の現象を可視化させ、改善活動に結びつけている現場もあります。このように職場の技術的領域によっては、QC サークル活動の中にIoT やデジタル技術をうまく取り込んでいく工夫や努力が欠かせなくなると思います。

これからの QC サークル活動ということでいえば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の積極的な取込みと SQC(統計的品質管理)との融合、あるいは Web 会議などの活用なども大事なポイントになるでしょう。さらに、目的や目標によってサークルメンバーを柔軟に選定するというスタイルも今後は大きなカギになるように思います。

光藤 その一方で、QC サークル活動として変えてはいけないところは何でしょうか。

細谷 これまで QC サークル活動で掲げてきた「基本理念」は、これからもしっかりと守る必要があると思います。みなさんもよくご承知の「人間の能力を発揮し、無限の可能性を引き出す」、「人間性を尊重して、生きがいのある明るい職場をつくる」、「企業の体質改善、発展に寄与する」の 3 点です。そしてさらに加えるなら、この QC サークル活動を誰のためにやるのかということも、多くの方々にしっかり認識してほしい。つまりこの活動は、自己実現→個の成長→個の価値向上につながる活動だということです。

佐々木 私も同感です。そしてよい仕事をしようとすることは人の本能であり、人の能力を信じることです。現場・現物・現実の三現主義による実証主義やプロセス改善を重視する姿勢の徹底したこだわりなどは、これまで同様に大事にしていくべきだと考えます。さらにいえば、「環境や技術などがどれだけ変わっても、改善活動は必ずある」というのが我々のスタンスだと思います。

基本の枠組みは変えなくても活動の中身は柔軟に変えていく

狩野 これまで、産業構造の変化とこれがもたらす社会構造の変化によって職場の第一線で働く人たち自体が大きな影響を受け、結果として QC サークル活動も変化してきましたが、今後もこの傾向は続いていくでしょう。具体的には教育水準の変化です。文科省の調査結果によれば、高校進学率は QC サークル創設の 1960 年頃の約 60%に対して今日は約 95% です。大学進学率も10% 強から約 60% となり、かつての中卒・高卒中心の現場構成から、高卒中心となり、今日は大学卒も含むように変化してきています。また、技術革新の進展とともに、労働集約的な現場から、オートメーション化、ロボット化が進み、作業内容にも大きな影響を与えてきました。

一方、国勢調査によれば、製造業を中心とする第二次産業に従事する労働人口は、1960 年頃の約 30% に対して今日は約 25%と若干の減少が見られますが、サービス産業を中心とする第三次産業では約 40% から約 70% 強というように大幅な拡大が見られます。このことは、QC サークルでは JHSでの普及ということに見ることができ、今後一層この傾向を加速させていく必要があるでしょう。また、第三次産業の経営者は、従業員に対して現状の改善に加えてイノベーションへの参画の期待が高いという話も耳にしますが、QC サークル活動全体の進め方にもこの傾向が出てくると思います。

佐々木 それは私も実感できます。かつての自動車産業は労働集約型で、あえて言うなら現場第一線では若くて持久力のある人たちが働いてくれれば一番効率がよかったわけです。しかしその後、急速に装置産業化が進みました。今、工場で働く人たちの中には、設備の稼働状況を適切に見極め、何か異常があれば対応するといった業務を行う人が多くいます。そういう人たちの QC サークル活動の発表を見ると、これは技術スタッフの取組みではないのかと思うようなハイレベルな報告もあって、驚かされます。

細谷 たしかに最近のテーマ解決活動の発表の中身を見ていると、ずいぶんレベルが高いですよ。QC 手法や新 QC 七つ道具を活用するだけでなく、さらに実験計画法なども勉強して使いこなすような事例を時々見かけますね。

狩野 だから世の中の大きな変化に合わせて、QC サークル活動もどこかをまったく新たなモノに置き換えるべきだということではなく、伝統的な QC 手法に加えて近接分野のIE 手法や TPM 手法、あるいは QC 七つ道具よりもレベルの高い統計的方法や新しいQC 手法、たとえば重回帰分析、自工程完結活動なども加えていくという柔軟な姿勢が必要になると思います。つまり QC サークル活動の基本的な枠組みは変えないが、中身を柔軟に変えていくということです。そうすることが教育水準の向上という強みを活かし、サービス産業の拡大という産業構造の変化やデジタル技術の飛躍的進化、グローバル化などへの対応を可能にする道だと考えています。

光藤 職場第一線で働く人たちに変化が起きているからには、その人たちが魅力を感じるような QC サークル活動にしていかないと、ついてきてくれない、また技術が高度に進化していった時には、問題解決のアプローチ自体も変えるというか、新たなものを加えていかなければいけない、そういう状況の変化に我々は対応できているのかということかと思います。

新しい形の QC サークル活動も雑誌の中でできるだけ紹介を

光藤 最後になりますが、本誌のあり方についても変えたほうがいい、見直したほうがいいポイントと、変えるべきではないと思われる両面についてご意見をお聞かせください。

佐々木 私は入社してすぐに工場で QC サークルのアドバイザーを担当させられたので、その時とても貴重だったのが現場に置いてあった『QC サークル』誌でした。毎月読み漁って、すごく助けられた。そこで得た情報を知ったかぶりのように現場の人たちにも話していたので、人の褌ふんどしで相撲を取っていたようなものですよ(笑)。

ただ、私が現場にいた時の QC サークル活動は、問題解決型に集中していればよかった。しかし最近の QC サークル活動を見ていると、課題達成型といえばいいのか、今は問題になっていないけれど、このままではダメだ、何かを変えなければというところを起点にした取組みも増えている気がします。しかし、現在の『QC サークル』誌は問題解決型の事例は豊富にあるけれど、それ以外の事例がまだまだ少ない。問題解決型とは異なる新しい取組みによる成功事例が多く紹介されるようになれば、読者にとっても新たな発見があってさらに関心と注目が集まるはずです。

それとオフィス業務の QC サークル活動の進め方や手法、解説記事ももっと加えてもらいたいですね。

細谷 もともと QC サークルとは、勉強する小集団としてスタートしたものです。でもこの頃は、あまり勉強していない職場も少なくないのではないか。そこがものすごく問題だと、私は考えています。といっても、無理に『QC サークル』誌を読みなさいというわけにもいかないでしょう。やはり楽しく読めて、やさしく学べる雑誌にもっともっとなってもらいたい。職場第一線の人たちに、魅力ある情報を提供することに注力していただきたい。それが私の希望するところです。

光藤 とても示唆に富んだ話を聞かせていただきましたが、あっという間に座談会の予定時間を超えてしまいました。まだまだ語り足りないことが数々あるとは思いますが、今日伺ったことをこれからの QC サークル活動と本誌の改善、改革に結びつけていきたいと思います。本日は長時間にわたって活発な議論を頂戴し、ありがとうございました。