シリーズ 中小企業の導入・推進事例 双和食品工業(株)
全社で進めるQCサークル活動は会社の存続、成長に不可欠な取組みであると位置づけ、実践
出典 QCサークル誌 2017年8月号
「餃子は苦手」という人って,はたしているのかどうか――。そう思ってしまうほど,餃子は私たちにとって親しみがあり,今や国民食の一つになったといっても過言ではないでしょう。それに餃子の世界って,いつも熱い!絶えず進化を続けているといった印象すらあり,それを提供する食品メーカーも激戦の中でしのぎを削り合っているようにも見えます。
そうした分野で確かな存在感を発揮している中小企業として,熊本県に本社を構える双和食品工業があります。同社で実践しているQCサークル活動について探っていくと,経営トップはこの活動をまるで必須栄養素であるかのように意識していることが,明快にわかってきました。
通信販売を中心にしながらできたての手作りの味を全国に
餃子,ぎょうざ,ギョーザ……。この料理の表記の仕方はいくつかあるものの,ここでは餃子に統一します。“餃”という文字はほかではなかなか見かけませんが,漢和辞典を引いてみると,いろいろな具材を小麦粉の皮で包み焼いた食べ物を意味するようです。
その餃子で手作りの味にこだわってきた双和食品工業(以下,双和食品と略)。創業したのは1967(昭和42)年6月。従業員数は80名足らずとはいえ,創業50周年を迎えているだけに老舗の食品メーカーといえるでしょう。本社を構える熊本市は昨年4月,大地震に見舞われましたが,幸い,本社,工場のいずれも小さな被害で済み,比較的早く事業を再開できたといいます。
ところで,もともと双和食品の事業の中心は,手作りの餃子などのチルド製品でした。低温で冷蔵管理した製品を毎日休まず,九州のスーパーマーケットなどに卸すという事業スタイルを長年にわたって継続。しかし餃子の世界には数々のメーカーが参入し,当然ながら競争は激化。そうした状況の中で同社は思い切った事業転換をはかりました。それが2000年5月にスタートさせた,生餃子の冷凍製品を中心にした通信販売事業の「餃子の王国」。業態の主力を通信販売に移行させたわけです。
この経営戦略の転換によって,それまでは九州圏内であった顧客マーケットが,一気に全国へと拡大。双和食品の味を楽しむファン層は,着実に広がってきたといいます。
教育,研修方法で模索しながら最後はQCサークル活動で納得
この双和食品でQCサークル活動を始めたのは,TQCを導入した1985年でした。以来,毎年1回,社内で発表会を開催。ところが1998年頃に活動を休止。社長の高尾さんは,その背景をこう説明します。
「毎日お取引先の店舗などに製品をお届けする事業スタイルから通信販売へと転換をはかったことが,一番の理由だといえます。それに伴い社内の組織体制や物流,営業,人の規模や配置などとすべての面で大幅に見直し。そのため社内はかなり揺れ動いたので,QCの活動はいったん休止することにしました。でもいつかは必ず,再開しなければという考えを持っていたんです」
なぜ,再開しなければと考えたのか。そこには経営者としての危機感と不安があったようです。なぜなら,扱うのは食品だけに品質面で不良が発生すればお客様の健康問題につながるだけでなく,会社としての信頼感は低下。また社内での改善活動と人を育てるという面でもQCは必要だと考えたそうです。
「実をいうと,社員の教育や研修ということでは外部機関の様々なセミナーや講座などを使ってみました。だけど結果的には,どれもあまり手応えはなかった。社員にすれば勉強をさせられているという感覚でしょうし,結局,報告書を出してお終いということでその場限りに。あまり身につかず,仕事にも活かせないという状態でした。でもQCというのは社員が自分たちで実践的に活動していくもので,成果も目に見えるでしょ。そのことに改めて気づいて,再開しようと決めました。結局いろいろ試したけど,最後に行き着いたのは,またQCサークル活動だったということですね」
その再開を決めたのは,2015年の暮れ。全社での再スタートは2016年4月から。活動復活にあたって高尾さんは社員たちに,次のようなメッセージを伝えたそうです。
「会社を存続させ,みなさんの雇用を守っていくには,会社の成長が必要条件。そのためには,どうしてもQCサークル活動をやらなければいけないんです」
ビジョン | 一、私達は業界で名実共にNO.1になることを誓います。 |
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商品 | 一、私達は信頼の味を創り,誇りのもてる製品を提供することを誓います。 |
顧客 | 一、私達はお客様の繁栄に責任をもち,固定ファン造りに邁進することを誓います。 |
管理 | 一、私達は三ムダラリを追放し管理利益を絞り出すことを誓います。 |
チームワーク | 一、私達は,チームはわが身の精神で目標を完遂することを誓います。 |
自己啓発 | 一、私達は熱意,誠意,創意を追求し人間的魅力を創造することを誓います。 |
専門家による毎月1回の指導で以前の意識,レベルは一変
QCサークル活動の再開のため高尾さんは外部組織に依頼し,一人の専門家の指導を受けることにしました。結果的にはその指導者の熱心で的確な教えに導かれ,活動を活性化させる土壌が整っていったようです。
再開プロセスで感心したのは,その指導者のアドバイスとプランニングでおよそ4ヵ月もの準備期間をしっかりと設けたこと。その間に推進組織の構築やサークル編成,研修などを実施。全社で11サークルを登録し,一斉に活動を開始させたのです。
活動目標は年間2テーマ完結で,発表会も年2回開催。そのスケジュールに合わせ,毎月指導者が必ず会社を2日間訪問し,すべてのサークルと会ってプロセスごとの確認とアドバイス。その指導スタイルは2年目を迎えた今年度も続いているそうです。
改めていうまでもありませんが,双和食品としてはQCサークル活動を過去に実践しており,その時代の経験者も少なからずいます。だから従来の活動の復活と思ってしまいますが,工場長の井さんによれば全然違っていたといいます。
「当社のかつてのQCはトントン拍子で進めていく感じでしたが,今はすべてのプロセスで先生から深く考えることを求められます。
「なぜ,そうなるの?」と何度も何度も繰り返し問われ,深掘りを重ねていくから,QCに対する見方や考え方は格段に高まってきたと思います」
この指摘と重なるように,餃子などの具である餡づくりの職場で活動する「キッチンクラブサークル」のリーダーを務める下村さんは,こんなことを話していました。
「メンバーは私を含めて4人ですが,QCサークル活動を始める以前と今とでは,かなり変わってきたという手応えを感じています。活動自体はなかなか順調に進んだとはいえないけど,それでも一番変わったのはみんなの仕事に対する意識でしょうね」
また,専務取締役の高尾さんは,QCによる職場の雰囲気の変化を指摘します。
「職場で毎月,何度も会合を開き,誰もが気軽に意見を言える場ができたのが,すごく良かったと思う。実際,みんな本当に社内のあちこちで話すようになったし,QCの考え方や手法なども共通言語のように使われるようになり,本当に変わったなと感じます」
外部にも出向いて視野を広げ人とのつながりの中で成長を
ところでQCサークル活動の推進ということでは社内に統括事務局を設け,推進担当者としては総務部の福島さんが受け持っています。しかし福島さんによると,「実質的には毎月指導に来られる先生が推進の中心で,私はまだ見習い中であると語っていました。
「とにかく今は毎回先生の指導を横で見ながら,あるいは直接,マンツーマンで指導や推進の仕方などを学んでいるところです。いずれは自立してできるようにならなければいけないけど,まだまだですね」
たしかに話を聞いていると,QCサークル活動推進の実務ということでは,定期的に訪れる指導者の影響力の大きさがよくわかります。ただQCサークル活動全体の牽引力ということでは,やはり高尾社長の存在がやはり大きいと言わざるを得ません。実際,高尾さん自身,こう強調していました。
「中小企業の場合,社長が動かなければ成功しないと思う。ただ上からやれと指示するだけでは,続きませんよ」
そして,推進,活性化の方策として興味深い2つのことも聞かせてくれました。まず第1は,従業員への活動成果の還元です。
「来ていただいている先生には,活動成果をできるだけ金額で出すようにお願いしています。その全サークルの成果金額のうち,3分の1は従業員に報奨金などの形で還元するとみなさんに伝えています。そうすれば,やりがいはもっと強くなるでしょ」
第2は,従来からも実践してきたことですが,従業員が社外にも出て視野を広げる機会を増やすことです。
「QCサークル九州支部が熊本県で開催する発表会などにはよく見学で従業員を連れていきましたが,それに限らず外に出て行くことは大事なんですよ。外部の人とも親しくなって話をしなさいと,私はよく指示します。人は人とのつながりの中で成長するもの。だからとにかく外にも動く。動けば必ず何かを見つけるし,学ぶ機会になるんですよ」
(取材・文 井上邦彦)
この記事は『QCサークル』誌2017年7月号に掲載されたものです。
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