私たちもQCサークル活動(小集団改善活動)しています②
機関誌『クオリティ・クラブ』※2024年3月・4月号(No.43)に掲載された記事です。
※機関誌『クオリティ・クラブ』 – 品質管理なら日本科学技術連盟 (juse.or.jp)
民間企業の取り組みに学び「公的機関」と「製造業」の“二刀流” に磨き
独立行政法人 造幣局
造幣局はその名の通り,貨幣の製造をはじめ,勲章や褒章,金属工芸品などの製造を担う独立行政法人である。地金・鉱物の分析や試験,貴金属地金の精製,貴金属製品の品位証明などにも関わる。組織的に公的機関でありながら製造業に携わる顔も持つ。平成4年4月,全職員が問題点の発見や解決にあたるために「品質管理自主活動」を導入。平成15年9月,業務改善制度の見直しに伴い「業務改善自主活動」と改称した。
独自の小集団活動の狙いや成果などを総務部総務課で事務局を率いる主事の小木曽隆さんと担当の岡本隆さんに聞いた。
1.活動成果は当該部門ばかりでなく水平展開へ
―造幣局の社会的な存在意義について,どのようにお考えですか。
小木曽
最大の使命は国民生活に不可欠な貨幣を安定的かつ確実に製造し,供給することです。貨幣ばかりでなく,その栄誉に相応しい品格を備えた勲章や褒章なども製造します。貴金属取引の安全のために品位の証明を正確に行う業務もあります。記念貨幣の製造や貨幣セットの販売も行っています。こうした事業を高度な技術で確実に実施すると共に,貨幣に対する国民の信頼を保つために必要な情報を提供し,通貨制度の安定と国民生活の向上に寄与することも存在意義の一つだと思います。近年は回収貨幣の貨幣材料としての再利用や環境に配慮したものづくり,省エネルギー化の対応,再生可能エネルギーの調達拡大などにも力を入れています。
―造幣局版QCサークル活動ともいえる「業務改善自主活動」はどのような狙いで始められたのですか。
岡本
造幣局が活力ある職場として発展していくためには,すべての職場で全職員が問題意識を持ち,その問題点の発見,解決に向けて自主的な活動を継続的に行うことが肝要との考えから平成4年4月に導入しました。 業務改善活動を通じて顕著な成果を挙げた職員にして表彰や評価などを行うことで業務意欲や能力を高め,技能の伝承を図ることも目指しています。
―民間企業と比べ,造幣局の活動にはどのような特徴があるとお考えですか。
岡本
社会基盤を支える公務員の立場でありながら,製造業という側面を有していることが組織としての特徴です。民間企業と異なり,直接的に利益を求められることはありません。
しかし,財務省から「国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する事項」や「業務運営の効率化に関する事項」について,毎年目標が示されます。これらを達成するために職員が各職場で業務改善の努力を積み重ねているという点で,基本的な姿勢は民間企業と変わらないと考えています。
―活動開始時の運営体制や推進方法はどのようなものでしたか。
小木曽
当初は造幣局長自らが導入宣言を行い,活動の目的を周知しました。その上で全体を取りまとめる「推進委員会」を設け,それを補佐する「推進管理室」を発足させました。さらに,活動の推進が円滑に行われるように製造部長などで構成する「推進幹事会」とそれを補佐する「推進事務局」を置きました。加えて,自主活動を支援,指導する「世話人会」を設け,各部門にサークルを取りまとめる「自主活動リーダー会」を置きました。 推進委員会は自主活動推進のための計画を策定。推進幹事会はその計画を実行します。世話人会はリーダーやサークル員の指導にあたります。このように,組織としてPDCAを回して継続的に取り組めるようにしました。
2.機械化で7割減らした七宝の手砥ぎ作業時間
―活動を進めるにあたって苦労されたことはなんですか。それをどのように克服しましたか。
岡本
当初は活動がなかなか馴染まず,できない理由,やれない理由ばかり並べるなど,積極性に欠けていました。恐らく,頭の中では分かっていても,どこから手をつけていけばいいのかが分からなかったのが正直なところでしょう。 そこで,平成5年2月,サントリー株式会社,JR西日本株式会社,阪急園芸株式会社にお願いして大阪本局講堂で模範発表会を催しました。これが一種の刺激となって,活動の活性化に一石を投じることができました。
模範発表会の1カ月後には初めて手作り感のある,自分たちの発表会を開催するまでになりました。初めは緊張していた参加者の顔が発表を終える頃には満足感に溢れ,生き生きしていたことを覚えています。
―これまでの活動の手応えをどう見ていますか。
岡本
当該部門の業務改善に役立てるだけでなく,その成果や手法を他部門でも活用することで,他部門における活動や業務改善に資する面が大きいと思います。そこで,各サークル活動の成果を職員に周知する,いわゆる「水平展開の場」として毎年度,本支局で地方発表会を開いています。
上位サークルは本局で催す中央発表会に進みます。ここで最優秀賞となったサークルは日科技連主催の「QCサークル全国大会」で活動成果を発表します。令和5年には2回参加したQCサークル全国大会において,各々,「QCサークル感動賞」と「体験事例優秀賞」を受賞しました。
―これまでの活動を通して大きな成果を挙げた事例をご紹介ください。
岡本
例えば,貨幣製造部門では,大阪本局貨幣部貨幣製錬課「みのりサークル」が「圧印工程におけるゴミ打ち不良を無くす」のテーマで,プレス作業中に入り込む浮遊ゴミによる不良の改善に取り組みました。さまざまな角度から対策を講じた結果,活動前に3.56%だった不良率を0.79%にまで減らしました。
目標であった「1.0%以下」に対する大きな改善成果です。勲章製造部門では,さいたま支局事業調整課「ジョインサークル」が「瑞宝中綬章・章身の自動研磨機実用化における総研磨時間の短縮」に挑みました。長時間同じ姿勢を強いられ大きな負担となっていた七宝(しっぽう)の手砥ぎ作業の機械化により,これまで300分かかっていた作業時間を87分に短縮することに成功しました。割合で示すと71%の改善です。
3.「のめり込める」雰囲気が活動を後押しする
―現在の活動に対する評価や今後の活動に寄せる期待をお聞かせください。
岡本
活動を始めて以来,31年という長期間にわたって各サークルが地道に活動を継続してきたことは大変に評価できると考えています。まさに「継続は力なり」だと思います。
QCサークル活動に代表される小集団活動は自ら考え,自ら学び,自ら行動することで個人の能力を引き出し,さらなる能力の向上につながる有効な活動です。それが結果的に活力ある職場づくりをもたらします。これからも品質向上やコスト削減,効率化などの成果を通じて造幣事業に貢献すると思います。
小木曽
当初は無理矢理やらされている感が非常に強かったと思うのですが,推進者が根気よく進めていけば,やがて成果につながると思います。成果はやる気を促します。ですから,それをきっかけに「のめり込む」状態になれば,活動は自ずと活発になるはずです。そのための雰囲気を醸成することも大切ですね。 導入効果としては,コミュニケーションが確実に深まったと思います。実際,職場内の疑問点なり改善点なりについて,いつでも気軽に話せるようになったという声をよく聞きます。新たな改善の方法や失敗の分析などの話し合いも盛んになっているようです。
―今後,小集団活動の導入を検討されている企業・組織へのアドバイスやメッセージをお聞かせください。
岡本
小集団活動はボトムアップでは進みにくいので当初はトップダウンで推進することが大切だと思います。活動が軌道に乗るまでは時間がかかりますが,推進者が粘り強く取り組み,QC研修会や外部のサークルを招いて模範発表会をすることも活動を進めるきっかけになるでしょう。結果的に,職場内のコミュニケーションが図られることで自主的に業務改善を行える企業・組織に変わっていくはずです。
(聞き手:ジャーナリスト 伊藤公一)
■造幣局